自然界に潜む数学~フィボナッチ数列~
0, 1, 1, 2, 3, 5, 8, 13, 21, 34, 55, 89, 144, ……
これはどのような法則に基づいて並んでいる数列でしょう?
正解は、「前の二つの数字を足した数」を並べていった数列です。
この数列は1202年にイタリアの数学者レオナルド・フィボナッチが発行した書籍「Liber Abaci(算盤の書)」に記載されていたことから「フィボナッチ数列」という名前がついています。
また, この数列に登場する数字のことを「フィボナッチ数」と呼びます。
いかにも人間の作為に満ちた数列のように思えますが, 実はこの数列が自然界にいくつも潜んでいるということをご存じでしょうか。
花弁の枚数、ひまわりの種の列の数, 松ぼっくりやパイナップルの鱗の数, 木の枝の分かれ方, …
はたまた人の体の中にある気管支や肝臓の血管の分かれ方までもがフィボナッチ数列に関わっているのです。
では, この中からいくつか実際に観察してみましょう。
目次
1. 花弁の枚数
さて, 花弁の枚数が3枚以上のフィボナッチ数となっている種(しゅ)を見てみましょう。
百合, アヤメなど→3枚
リンゴなど→5枚
コスモス→8枚
キク科の植物→13枚, 21枚, 34枚
などなど
このように花弁の枚数がフィボナッチ数列に現れる数字である種(しゅ)はたくさんあるのです。
ただ, 花弁の数が144枚以上に達する植物は今のところは発見されていなそうです。
2. ひまわりの種の螺旋の数
ひまわりの種にもフィボナッチ数列が潜んでいます。
ひじょうに数えづらいですが、日本のひまわりの種の並びは
左回りに21列と右回りに34列
左回りに34列と右回りに55列
左回りに55列と右周りに89列
のいずれかになっています。
このような螺旋構造を, フィボナッチ螺旋とよびます。
巨大なロシアヒマワリでは螺旋の数は89列と144列のような数字になっていることもあるようですが,ここまで大きくなると螺旋の数よりもその大きさが気になってしまいますね。
3. なぜフィボナッチ数が現れるのか
では, どうして植物にフィボナッチ数が隠れているのでしょうか。
もちろん植物や生物が数列を意識して進化してきたわけではありません。
花の中心部分や動物の体の中など限られた空間を効率良く利用するために進化した結果フィボナッチ数となったという説が有力です。
これを応用すると,たとえば建物内部の家具の配置といった「空間を効率よく利用する」ということが可能になります。
また,アメリカではひまわりの種の配列と同じ並びで水の出る穴を配置したシャワーヘッドが開発されたそうです。
このシャワーヘッドはきめ細かなやさしい水が均一に出るとのことで, 人気を博しているようですよ。
他にも「フィボナッチ」の名を冠したモノはたくさんあり, フィボナッチ数列を取り入れた芸術作品を数多く作っているアーティストの方もいらっしゃいます。
4. 前の数字を3つ以上足すことで作った数列はあるのか
前の2つの数を足していくことで数列を作ったものが「フィボナッチ数列」なら, 前の3つの数, 4つの数を足していくことで数列を作ることもできるのでは?と考えたくなりますね。
実はそのような数列も考えられています。
次の数列は0,0,1から始まり,「前の三つの数字を足した数」を並べていった数列で「トリボナッチ数列」という名前がついています。
0, 0, 1, 1, 2, 4, 7, 13, 24, 44, 81, …
次の数列は0, 0, 0, 1から始まり, 「前の四つの数字を足した数」を並べていった数列で「テトラナッチ数列」という名前がついています。
0, 0, 0, 1, 1, 2, 4, 8, 15, 29, 56, …
五つ足して数列を作れば, ペンタナッチ数列
六つ足して数列を作れば, ヘキサナッチ数列
七つはヘプタナッチ数列, 八つはオクタナッチ数列, …
というようにいくらでも足す数を増やした数列が存在します。
トリ, テトラ, ペンタ, ヘキサ, ヘプタ, オクタ, … 特に理系の皆さんは聞いたことがある接頭辞ではないでしょうか。
5. フィボナッチ数列の一般項を求める
さて, ここからは少し専門的な内容になりますので興味のある方だけ読んでみてください。
現在高校の数学Bの数列で発展的内容として扱われている「隣接3項間漸化式」の解き方がわかる方であれば数式も含めてしっかりと理解できると思います。
フィボナッチ数列の一般項を求めてみましょう。
フィボナッチ数列は次の漸化式を用いて定義されます。
初項はとする流儀もありますが, ここではより一般的にから始めてみたいと思います。
隣接3項間漸化式では、漸化式を
および
の形に変形することができれば数列と数列を等比数列の一般項の形で表すことができます。
そのために必要な αとβの値は, 漸化式のをに, をに, を1に置き換えることで得られる方程式
すなわち
を解くことで得られる二つの数です。
二次方程式の解の公式により解は
となります。
とおくと漸化式は以下の二通りに変形することができます。
ただし, 数字を代入してしまうと見づらいので, αやβのままで計算して, 最後に代入しましょう。
(1)は, 数列が初項, 公比 βの数列であるから
n-1乗では?と思われたかもしれませんがnで合っています。
から始まっているのでn乗になっていることに注意しましょう。
(2)からも(1)と同様の計算をすることで
が得られますね。
この二つの式を辺々引くことにより
となります。
ここで, であることから,
ですね。両辺で割ることによって
これでフィボナッチ数列の一般項が求められました。
これはしばしばフィボナッチの頭文字をとって
と表されることもあります。
数列には整数しか登場しないにも関わらず, 一般項には無理数のが登場していてとても不思議ですね。
実際にnにいくつか値を代入して計算してみると, 引き算やによって上手に打ち消されている様子が見て取れると思いますのでやってみてください。
他にも, 「母関数」というものを用いて一般項を推定してから数学的帰納法で証明するという方法でも一般項を求めることが可能です。
しかし, ひじょうに計算が長く煩雑になってしまいますのでここでの説明は割愛します。
興味がある方は調べてみてくださいね。
6. フィボナッチ数列と密接にかかわる黄金比
フィボナッチ数列に関連する数学的事項に, 「黄金比」というものが存在します。
黄金比とはおよその値で 1:1.618 という比のことです。
正確にはという比になります。
という数字, どこかで見覚えがありますね。
実はこの数字, フィボナッチ数列の一般項の中に登場しているのです。
ついでに, フィボナッチ数列の隣り合う2項の比もという値に収束します。
黄金比は人が「最も美しい」と感じる比率であり, 世界共通のものであると言われています。
例えばレオナルド・ダ・ヴィンチが描いた絵画「モナ・リザ」は顔の横の長さ : 縦の長さが黄金比になっています。
古代ギリシアの彫刻「ミロのヴィーナス」ではへそから下:へそから上だけでなく, 下半身:全身の比も黄金比になっています。
そのほかにもピラミッドの高さと底辺の長さ, 超高級ヴァイオリンであるストラディバリウスの全長と穴の下の目の中心までの長さ, はたまたスマートフォンやPCで有名なApple社のロゴやGoogle社のロゴ, 名刺や交通系ICカードのサイズや本のサイズ…
挙げ始めたらキリがないのですが, 私たちが黄金比を目にしない日はないと言っても過言ではないほどいろいろなところに利用されているのです。
7. その先の数学の世界へ
ここまで, フィボナッチ数列や黄金比について見てきました。
これらは数学的には「代数学」という分野で扱われることが多いものです。
中学校や高校で扱う「一次方程式」や「二次方程式」といったものがこの「代数学」の入り口にあるものです。
フィボナッチ数列や黄金比を入口に, 数学に魅力を感じる人が増えてくれれば, そしてその先に広がる広大な数学の世界へと足を踏み入れる人が増えてくれれば幸いです。